院長コラム
Column
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新型コロナワクチンの接種も広まってきました。今回は乳がん検診や乳腺外科診療と新型コロナワクチンによるリンパ節腫大に関することをお話します。
新型コロナワクチン接種後の副反応として、ワクチン接種後、特に2回目の接種後に接種した側の腋窩リンパ節が腫れることが報告されています。これは抗体を作成するために免疫機能が働いている現象です。これは、病気ではないので心配はいりません。
ただし、リンパ節の腫大は乳がんの転移など他の原因でも生じますので、紛らわしいのも事実です。
なお、新型コロナワクチンの接種後にリンパ節症の頻度は、
モデルナ社製のワクチンで1回目の接種後が11.6%、2回目が16%という報告があります。
ファイザー社製のワクチンでは自己申告で0.3%との報告がありますが、もう少し頻度が高い可能性も指摘されています。
「ワクチン接種後どのタイミングで乳がん検診を受ければよいか」
そのような疑問もでてきますよね。
新型コロナワクチンの副反応によるリンパ節腫大があるので、自覚症状の無いリンパ節腫大がマンモグラフィ検査などで発見される可能性もあります。
そのため、日本乳癌検診学会から「乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応の手引き」 http://www.jabcs.jp/images/covid-guide202106.pdf
というものが示されています。
内容は、「ワクチン接種前に施行するか、2 回目ワクチン接種後少なくとも 6~10 週間の間隔をおいてから施行すること」が推奨されています。
しかし、ワクチン接種のために検診を遅らせすぎることは良くないことです。コロナ禍で、受診を控えている方、検診を先延ばしにしている方も多いかと思われます。早期に乳がんを発見する機会を逃してしまう可能性もあります。
「1回目を受けて、2回目のワクチン接種後から6週間以内に検診を受けてはいけない」
ということではありません。この点をしっかり覚えておいてください。
ワクチン接種から日が浅い時期に、乳がん検診を受ける場合は、その旨を申し出て下されば、それを踏まえた上で画像診断の判定を行います。
脇の腫れが気になる(しかし、ワクチン接種から日が浅い…)
このような症状が出てきた場合どうしたら良いか迷う方もあるかと思います。
まず、脇(腋窩)の腫れと言っても、全てがリンパ節腫大ではありません。副乳や脂肪腫や、その他悪性疾患の可能性もあります。
またリンパ節の腫れが、乳房に自覚のない乳がんからの転移の可能性もあります。
まずは、診察と画像検査は必要と考えます。
そのうえで、リンパ節腫大が見つかった場合はどうするか・・・
ワクチン接種後に脇の腫れを自覚する場合も、症状は無くても、診察時の画像検査で偶然にリンパ節腫大が見つかることもあります。
そこで、放射線診断の専門誌”Radiology”のScientific Expert Panel(専門家会議)では以下のような見解を示しております。
ワクチン接種後なら、診断のための詳細な画像診断やリンパ節の生検は、少なくとも6週間経過を見ることを推奨されています。乳がんなどの既往がある方は、リンパ節への転移も否定できないので、画像検査により比較的短期間での経過観察を行ったり、細胞診の検査を考慮することとしております。
当院でもワクチン接種後の乳腺外来の診察時に、ワクチン接種をした方の腋窩リンパ節腫大を認めた場合、リンパ節形状や乳腺の状況を考慮して、経過観察の期間を決めたり、細胞診検査を行うことを判断するようにしております。ですので、乳腺のしこりや痛み、乳汁分泌など乳腺の症状がある方、腋窩の腫れが心配な方、ワクチン接種の時期を気にせずに受診することをお勧めします。
まとめ「当院の方針」
過度に先延ばしにならない限り、ワクチン接種前に施行するか、2 回目ワクチン接種後少なくとも 6~10 週間の間隔をおいてから施行すること」をおすすめします。
しかし、この間に検診を受けてはいけないということではありません。
早期発見のタイミングを逃す可能性もありますので、検診を受ける際にはワクチン接種の時期を申し出て下れば大丈夫です。
乳房や腋窩に症状があり気になる方は早期に受診をおすすめします。
腋窩リンパ節腫大を認めた場合は、画像検査を慎重に判断して、適切な経過観察期間を決めたり、必要と判断したらMRI検査や細胞診検査などを行います。また、受診の際には、コロナワクチン接種の有無や接種時期を教えて下さるようご協力をお願いいたします。
これは、その後の診療方針を決める上で大切な情報となります。
今回はワクチン接種後の腋窩(脇の)リンパ節腫大と乳がん検診、乳腺外来診察との関係を記載いたしました。
乳がん検診を受けたり、診察を受ける際の参考にしていただければと思います。
大阪市立大学医学部卒業。
日本外科学会専門医、日本乳癌学会乳腺専門医、乳がん検診マンモグラフィ読影認定医、乳がん検診超音波検査実施・判定医、日本癌治療認定医機構癌治療認定医。